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検証 ゴムタイヤトラム

 近年フランスでは新しいタイプのトラムとして、ゴムタイヤトラムが開発されました。トラムは比較的安価に建設できると言っても、それなりに建設コストがかかるので、もっと安価なトラムとして開発されたのがゴムタイヤトラムです。このゴムタイヤトラムの特徴として、駆動や車体を支えるのはバスのようにゴムタイヤで行い、レールなどを使って案内するシステムとなっています。レールは案内だけでよいので通常のトラムと異なり一本だけとなり、また路盤もそう強化する必要がないので建設コストが軽減されます。
 現在、ゴムタイヤトラムとしては三タイプ開発されています。一つ目は路面電車車両製造でも最大手のボンバルディア社が開発したTVR、二つ目はフランスのロール社が開発したトランスロール、三つ目はイリスバス(ルノー系列)が開発したCIVISです。TVRとトランスロールは案内に鉄レールと鉄車輪を用いるもので、CIVISだけは光学式と言って、デジカメで道路上にペイントされた白線を読み取ってガイドするものです。CIVISはどちらかと言えば普通のバス(トロリーバス)に近い感じでトラムに分類できるかどうかはわかりません。
 3システムとも、RATP(パリ交通営団)の外環状バスルートで長期にわたる実験運行が行われ、現在TVRはナンシーとカーン、CIVISはルーアンとクレルモン・フェランで運行が始まりました。トランスロールは2006年にクレルモン・フェランで開業する予定です。
 新しい交通機関として注目されていますが、もちろん新しいものである以上は欠点なども明らかになっていないということになります。現在のトラムは100年以上も使い続けたシステムの延長線上にあるわけですから、完成された安定した交通機関だと言えます。そのトラムと比べてどんなことが違うのか検証してゆきたいと思います。




1, TVR ボンバルディア社

TVRイラスト左側。運転台は左側にだけあり、こちら側にはドアはありません。
TVRイラスト右側。運転台は右側にだけあり、こちら側にはドアが4枚あります。もちろんノンステップ車両です。
ナンシーのTVR。片側運転台で、ドアも片側にしかありません。

イラスト:TVRのガイド方式。左右のゴムタイヤで駆動し、中央の滑車上の案内輪で1本レールでガイド走行します。 TVRはボンバルディア社によって開発されたゴムタイヤトラムで、現在ナンシーとカーンで運行が始まっています。このトラムの特徴は、駆動輪をゴムタイヤとし、案内用のレールを1本だけ曳いて、滑車上の鉄輪でガイドしていくというものです。動力はモーターの他、ディーゼルエンジンも搭載し、非電化区間ではディーゼルエンジンで走行が可能です。集電装置はパンタグラフと2本のトロリーポールの2タイプあり、カーンではパンタグラフ集電、ナンシーではトロリーポール集電を採用しています。パンタグラフ集電の場合は、案内車輪と案内レールは帰電線の役割も果たします。ガイド構造は右図を見て下さい。この絵では集電装置はパンタグラフを書いていますが、トロリーポールの場合も同様です。
 このTVRというシステムの特徴は、単なるゴムタイヤトラムだけでなく、ディーゼルバスなど他のモードでも走れるというところに特徴があります。TVRが選択可能なモードは以下の通りです。

1,トラムモード
2,トロリーバスモード(トロリーポール装備の場合に限る)
3,ディーゼルバスモード(またはバッテリー)

 トロリーバスモードはナンシーにのみ存在します。

 TVRとトランスロールは案内形態も異なりますが、車体構造も異なります。このTVRシステムは、連接バスを基本にしたものとなっています。連接バスは日本ではなじみはありませんが、ヨーロッパではどこの都市でも見られる、車体を2つ繋いで大型化したバスです。ますは下の図をご覧下さい。対照のために、フランスで代表的な連接バスであるルノーおよびVANHOOL製の連接バスの図面も載せます。この図面では、TVRはナンシーのトロリーポール型にしています。

イラスト:TVRの側面図。3車体連接のバス車体で、前位車体に二対のゴムタイヤ、中位と後位の車体の後ろ側にそれぞれ一対ずつタイヤがあります。
イラスト:Vanhool製の二連接バス車体。前位車体に二対のゴムタイヤ、後位の車体の後ろ側に一対タイヤがあります。前位車体の車内にエンジンがあって、車両全体がノンステップになっています。
イラスト:RENAULT製ノンステップ連接バス。タイヤ位置は上と同じですが、エンジンルームが車体後部にあり、後位車体は駆動装置の関係上一段高くなっています。

 ご覧の通り、TVRの車体構造は連接バスを3車体タイプにして、ガイド輪をつけたものであるということがおわかりいただけると思います。また、TVRはバスと同様、片側にしか運転台がありません。TVRはトラムとバスのデュアルモードシステム(二つ以上のシステムを直通運転できるシステム)を目指したものであるため、連接バスを基本にトラムにしたのでしょう。

 それでは実際の運行状況について、ナンシーのトラムの印象から述べてみます。まずガイドはうまくいっているのかということですが、これはまあまあうまく言っているという感じです。都心部の直線区間ではあまり問題がありませんが、ナンシー駅前停留所のところには下り坂でS字カーブになっている箇所があり、この地点はおそるおそる通過していると言う感じです。おそらく、ガイド輪はさほどしっかりしていないので、この1本レールがS字カーブしている地点で脱輪する危険性が高いためだと思われます。通常のトラム並みの軌道敷設なら問題はなさそうですが、S字カーブや微妙なカーブなどにはきわめてガイドが弱そうな感じを受けます。
 それではガイド外の区間の走行について、車体が3つも連なっているからうまくカーブを曲がれるのだろうか、ガイド付きならばうまくカーブを曲がれるのはわかるが、ガイドなしでは本当に3つの車体がちゃんと曲がってくれるのか?とお思いの方も多いと思います。結論から言えば、うまく曲がっています。ナンシーのトロリーバスモードの区間には何カ所か交差点を直角に曲がっている箇所がありますが、何の問題もなくスムーズに曲がっています。また走行に関して言えば、トラムモード時よりもトロリーバスモード時の方がスピードを出しています。よく考えればヨーロッパでは連接バスはもう長い間使っているわけで、ステアリング機構の技術開発は相当進んでおり、3連接車体のバスがカーブをスムーズに曲がれるような機構を作るのはさほど困難ではない、ということができましょう。つまり、このTVRは連接バスの技術進歩の中で誕生したシステムであるということができます。

 概して言えば、ナンシーの場合ガイドレール上を走っている場合よりも、普通の連接バス(トロリーバス)として走っている時の方が明らかに調子がよいことがわかります。ナンシーのトラムはよく故障しており、その面での利用者の評判は芳しくありません。結論から言えば、ナンシーのTVRは皮肉にも、ゴムタイヤトラムのウィークポイントを明らかにした上に、3連接トロリーバスがいかに優れたシステムであるかということを証明してしまったように思います。


ナンシーのTVR写真(クリックすると拡大します)
ナンシートラム写真1 ナンシートラム写真2 ナンシートラム写真3 ナンシートラム写真4




2, トランスロール Translohr ロール社

2004/3/30 ロール社へ取材したので、記事を加筆・修正しました。
トランスロール、工場試験車両
ストラスブール工場で試験走行している試作車両

図:トランスロールのガイド方式。左右のゴムタイヤで駆動し、左右2つ斜め向きに取り付けた通常のフランジ付き車輪で一本レールを挟んで案内します。 トランスロールTranslohrはフランスのロール社(Lohr)によって開発されたゴムタイヤシステムです。ロール社はストラスブール近郊Hangenbieten市にあり、ストラスブールはフランスのトラムでなにかと話題になります。ロール社は、自動車輸送用のトレーラーや軍用トラックなど主に特殊車両を製造するメーカーでした。都市交通に関しては、2000年のストラスブールのトラム増備車の最終組み立てを担当し、また現在ストラスブールの車両整備を担当しています。そういう経緯で、トランスロール開発に際して、ユーロトラムをかなり参考にしています。

 トランスロールはガイドは1本レールと鉄の車輪、駆動はゴムタイヤという点はTVRと同じですが、鉄輪のガイド方式が異なったり、車体構成が異なったりとかなり異なったシステムです。TVRが連接トロリーバスを基本にしているのに対して、トランスロールはトラムを基本にしたゴムタイヤトラムとなっています。そのため、TVRはバスモード走行(ガイドなし)が可能なのに対して、トランスロールは基本的にトラムモード走行(ガイド付き)のみとなっています(車庫などでの入れ替えではガイドなしも可能)。TVRはバス同様片運転台なのに対してトランスロールは両方に運転台がついており、どちら向きにも走れます。

 まずガイド方式ですが、トランスロールでは斜めに取り付けた2本の通常のフランジ車輪で左右からレールを挟み込む方式を採用しています。真ん中のレールを帰電線として使用し、ガイド輪の前後にコレクターシュー(集電靴)が取り付けられています。ガイド輪と帰電用コレクターシューを分けたのは、ガイド輪に防音素材を使うためだそうです。ガイド輪の線路接地面はゴムが巻かれており、騒音防止と粘着力増加がはかられています。左右からレールを挟み込むので、レールに車両の重量が掛からず、さほどレールの土台が強くなくても大丈夫というメリットがあるようです。TVRの滑車方式に比べればしっかりレールを挟み込みます。線路は、斜め方向の車輪にあわせて、独自の菱形断面のレールを使用しています。トランスロールの動力は電気駆動だけです。一応バッテリーを搭載しており、架線なし走行も出来ます。また、一応ガイドなし走行も可能になっています。と言えども、バッテリーの容量から言って架線なし走行は短時間しかできません。ガイドなし走行も本線でというわけではなく、車庫内の入れ替えなどで使う程度です。
 車体構造ですが、こちらはモジュール方式を採用しており、モジュールを組み替えることにより様々な編成に対応しています。各モジュールは、駆動台車とガイド輪のあるモジュールが運転台モジュールと中間連接部モジュールであり、台車のない客室モジュールを挟んで1本のトラムを構成します。とりあえず下図をご覧下さい。

図:トランスロールの構造図。駆動輪のある短いユニットで、タイヤのない客室ユニットを挟むという構造です。

 図では客室モジュールが2つのタイプ(一番短い)ものを書いていますが、中間連接部モジュールと客室モジュールを挟んでいけば、7車体、9車体と長いトラムを構成することも可能です。確かに、台車モジュールと客室モジュールからなるユーロトラムと同じ構成では、バスモード時のステアリング機構を入れるのが難しく、トラム専用車両になるのは当然という感じがします。

 トランスロールは現在フランスのクレルモン・フェラン、イタリアのパドヴァPadova、ローマ近郊のラクラL'Aquila、ヴェネツィアで採用が決まっています。また日本に対しては、三井物産グループの物産交通システム株式会社とロール社が提携しています。青い塗装を採用するパドヴァは2005年、ワインレッドのクレルモン=フェランは2006年に開業予定です。

 トランスロールは初めからトラムとして設計されているために、システムとしての完成度は高くなっています。ただし、TVRがデュアルモード対応なのに対して、トランスロールはトラムオンリーのシステムであるために、若干応用範囲が狭くなります。TVRはトロリーバスと、トラムは鉄道と互換性がありますが、トランスロールはそれで完結したシステムで、その点ではモノレールや新交通システムと同じです。パリや札幌の地下鉄は通常の地下鉄をゴムタイヤ駆動にしたシステムであるように、トランスロールは通常のトラムをゴムタイヤ駆動にしたものであると言えます。トランスロールは、パリのゴムタイヤメトロ〜VALと続くフランスのゴムタイヤ式鉄道の流れをくんだシステムと言えます。すでに2路線で運転開始しているTVRと比べ、まだ営業運転していないのでトランスロールの実力は現段階では未知数です。

トランスロール写真(クリックすると拡大します)
(ロール社実験線で撮影)
トランスロール バッテリー走行中 実験車は片側ドア仕様です 台車付近の構造

 

結論

 結論から言えば、ゴムタイヤトラムは必ずしも安価で簡単な新しいLRTシステムとなるとは言い切れません。新しいシステム故の不安定さもありますし、通常のシステムと異なるということは互換性がないということにもなります。日本でも一部では注目されていますが、そのまま日本へ持ってきて成功するかどうかは保証できません。
 もう一度このゴムタイヤトラムのメリットを考えるにあたって、なぜナンシーやカーンがこれを採用したのかという理由を挙げれば、以下のことが指摘できると思います。

 どちらかと言えば、安価なシステムであり、建設コストが安いということよりも、既存のインフラ転用ができたり、地形という条件を考慮した上での採用ということが指摘できると思います。建設コストの安さも、実際に運行を始めてみないとシステムの状態がわからないと言えます。もし不具合が発見されて運休や改修工事(ナンシーでは実際にそれで1年休止したくらいです)ということになれば新たな負担が増えることになります。まだまだ使ってみないとわからない部分が多いと言えます。現段階で日本で採用するのが有効だとすれば、トロリーバスや連接バスがほとんど無い現状を考えれば、坂道が多い町くらいだと言えましょう。

 ゴムタイヤトラムに関しては、補助金もかなり影響していると思われます。フランスでは軌道系の方がバスよりも国からの建設コストへの補助金が多くなります。また、フランスでは、公共交通は赤字なので、税金から補助しています。フランスでは、自治体が域内の企業に対して従業員の給料に応じて課税し、公共交通専用の財源として利用する交通負担金(Versement Transport)という税金制度があります。この交通負担金の税率、バスのみだと1%ですが、軌道系交通機関だと1.75%になります。つまり、普通のトロリーバスとして運行するよりは、TVRにしてレールを曳いた方が建設費補助も出るし、交通税収入も多くなるということが指摘できます。必ずしも税収を増やすことが目的ではないにせよ、TVRを採用しても自治体の負担は変わらないということは間違いありません。確かに日本でも、路面電車には建設費補助がなく、モノレール・新交通システムには補助があったので、モノレール・新交通システム導入が相次いだのに対して路面電車新設はほとんど無かったと指摘されていますので、機種選定の際に補助金システムの問題は大きく関わっているのは間違いありません。

 ゴムタイヤトラム開発の背景には、トラムの発展だけでなく、連接バスの発展と普及があるということを考慮しなければならないでしょう。またフランスの場合、パリのゴムタイヤメトロやVALシステムに見られるように、ゴムタイヤの軌道系交通の開発に熱心であり、その延長線上でゴムタイヤトラムも開発されたと言えます。つまり、このゴムタイヤトラムはフランスという国の風土に合わせて開発された側面が強いと言えます。イタリアでも採用されていますが、イタリアは元々トロリーバスが結構存続しており、連接タイプも導入されているうえ、架線レストロリーバスを開発しているくらいですから、ゴムタイヤトラムを受け入れる素地は確立していると言えます。まだLRT(トラム)の都市交通システムとしての位置づけすら確立しておらず、なおかつトロリーバスがなく、連接バスの実績も乏しい日本では、すぐに受け入れられるかどうかわかりません。日本では連接バスですら、法解釈の問題で導入できずにいますから、ゴムタイヤトラムの導入には困難ではと思います。

 色々批判点ばかり述べてきましたが、このゴムタイヤトラムも、ヨーロッパにおける公共交通復権の流れの中で、積極的に様々な新機構を開発した成果であるということは確かです。ゴムタイヤトラムは、トラムが復権しその中で新たな技術開発が進み、また連接バスの技術開発が進んできたからこそ、これらを応用して初めて誕生したシステムであると言うことができます。公共交通復権を目指し、柔軟な発想で積極的に技術開発を進めてきたからこそ、ゴムタイヤトラムというシステムも誕生したのです。ゴムタイヤトラムは、トラムやバスを積極的に活用しようという発想があったからこそ生まれたのです。日本から見れば、新しくできた乗り物(結果)ばかりに目がいってしまいますが、なぜそれが生まれたのかという背景やプロセスに注目すればまた違った知見が得られるでしょう。法解釈の問題から連接バスすら導入できない日本の現状を考えれば、ゴムタイヤトラム導入の是非を考えるよりは、それを生み出す公共交通に対する積極的な姿勢、発想の柔軟さに注目した方が得られるものは多いと思います。





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2003年7月30日 作成
2004年2月24日 訂補
2004年4月3日 トランスロール関係記事加筆


・ゴムタイヤトラムに関しての参考文献・資料

・森五宏『トロリーバスが街を変える 都市交通システム革命』RIC、2001

 トロリーバスに関しては一番まとまった文献です。トロリーバスの歴史から各国のトロリーバスの現況など多彩な内容です。ゴムタイヤトラムは新型トロリーバスの一種として、かなりページ数を割いて紹介しています。この本では架線なしトロリーバスの紹介を初めとして、最新型トロリーバスの現状を知るには最適な本なので、トラムや都市交通に関心のある方は一読をお薦めします。

・望月真一『路面電車が街をつくる 21世紀フランスの都市づくり』鹿島出版会、2001

 フランスの都市交通政策の現状を知るには最適の文献。220ページから222ページまででパリ郊外の走行実験が取り上げられています。

・ロール社のトランスロールのカタログ

ロール社のサイトからダウンロードできます。ENTRERをクリックし、Transport Publicのコーナーへ行けばトランスロールの情報を見れます。サイト自体はフランス語だけですが、トランスロールのカタログ(PDFファイル)は英語版、ドイツ語版、イタリア語版もそろっています。Documentation (pdf.zip : 3,7 Mo) のダウンロードしたい言語を選んでクリックすれば、カタログが入手できます。



【関連項目】


ナンシーのトラム


特集4 失敗事例の検証


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