特集第2回 トラム製造メーカーの系譜
トラム車両製造メーカーが競争することにより、様々な新機軸のトラムが開発されています。大きなメーカーは国際的な規模で納入実績を持っており、開発費の高い低床トラムを生み出すことができたのは、この国際規模での受注があるからです。日本の鉄道車両製造では、鉄道会社が独自の設計を行い、それに従って製造メーカーが生産をするオーダーメイド型生産が主流ですが、欧米の鉄道車両とくにトラムでは、メーカーが予め車両の設計図を作りいくつかのバージョンをカタログラインナップし、事業者はカタログから自社にあったモデルを選んで発注するというレディメイド方式が一般的です。そのため、現在ヨーロッパの新型トラムは数種類のカタログモデルに絞られつつあります。
各トラムのラインナップの解説は今後してゆくとして、今回はまずその前段階として製造メーカーの系譜について解説してゆきます。
1,現在のヨーロッパ・カナダ系メーカー
ヨーロッパ系メーカーは自動車や航空、家電などのグローバル企業がトラム製造しているケースが多く、近年複雑な合併・譲渡を繰り返しています。まず現在営業中のメーカーをあげ、次に合併前のメーカーの概観について述べてゆきます。この項目では本来ヨーロッパ系と書くべきところが、なぜヨーロッパ・カナダ系になっているかと言えば、カナダ系とヨーロッパ系の合併があったからです。
ボンバルディア社
Bombardier
ボンバルディア社は現在ヨーロッパで最大規模の鉄道製造メーカーとなっています。本来はカナダに本拠を置く航空機製造メーカーであり、近距離用小型機を中心に製造するメーカーでした。近年鉄道車両製造にも進出し、独自開発による新型低床トラムをヨーロッパ向けに売り込みをかけていましたが、先行他社に比べて受注実績やラインナップでは劣っていたのは事実です。転機が訪れたのは1999年。ボンバルディア社は当時ダイムラー・ベンツの鉄道車両製造部門であったAdtrantzから鉄道製造部門を譲り受けたのです。これによってボンバルディア社は世界でも最大級の鉄道製造メーカーに躍り出ることになりました。現在ボンバルディアの鉄道製造部門はウィーンに本拠を置き、ヨーロッパ市場向けに事業展開しています。
トラムのラインナップでもヨーロッパでトップの実績を誇っています。元々合併したAdtrantzが数社合併してできたメーカーであり、引き継いだモデルの数が多く、非常にバラエティーに富んでいます。大きく分けると、ボンバルディア系、Adtrantz系、ABB系など数種類に別れます。まず純粋のボンバルディア系としては、シティーライナーシリーズおよびトラム=トレインシリーズがあります。ボンバルディアのトラム=トレインはドイツのザールブリュッケンで採用されています。また、フランスで積極的に導入が進められているゴムタイヤトラムのTVRもボンバルディアオリジナルのモデルです。ボンバルディアオリジナルのトラムは、低床トラム部門ではあまり目立ちませんが、鉄道線乗り入れタイプやゴムタイヤトラムなど、新規部門でリードしていることがわかります。Adtrantz系としては、インチェントロ、コブラ、ユーロトラムなどが挙げられます。
日本へはAdtrantz時代に新潟鐵工所と提携をして熊本に日本初の低床トラムを導入していた関係があり、ボンバルディアになった後もこれは続き、2002年に岡山のMOMOがボンバルディア製造として納入されました。新潟鐵工所は2002年に経営破綻しましたが、石川島播磨重工が吸収して新会社新潟トランシスとして再出発しています。ボンバルディア=新潟トランシスの提携による日本へのトラム導入はこれからも続く予定で、2003年末には高岡に新型低床車が納入されます。
ボンバルディア社サイト 言語は英語、フランス語、ドイツ語だけです。トラムに関しては、現行カタログモデルの納入した都市ごとに紹介があり、それぞれの車両のテクニカルデータと図面を見ることができます。トラムのコーナーへは英語版ページ(デフォルト)でSitemap→タブで「Bombardier Transportation」を選び、「Rail Vehicles」の「Light Rail Vehicles」を選択。ページが表示されたら、本文のやや上のメニューに「Light Rail Vehicles」のメニューを選ぶと、「Flexity Xxxxx」が4つ表示される。この4つが車両のシリーズ名で、クリックするとそれぞれのページが表示される。右の納入都市名を選ぶと、その都市のトラム車両の概要が表示され、図面やテクニカルデータのリンクも表示される。
シーメンス社 Siemens
言わずと知れたドイツ最大の総合家電メーカー。電車やトロリーバスを最初に開発したのはシーメンス社であり、トラムの創始者と言っても過言ではありません。90年代後半にドイツ有数の路面電車製造メーカー、デュワグ社を傘下の納め、現在はシーメンス=デュワグのトラムとして事業展開しています。低床トラムはコンビーノというモデル1本に絞っており、合併の結果様々なモデルが乱立するボンバルディアとは対照的になっています。コンビーノは現在、ポツダム・フライブルクやスイスのバーゼルなどで採用されています。1435mmゲージの他、1000mmゲージ用のもののあるのが特徴です。
日本へは国内最大の路面電車製造メーカー、アルナ工機(現アルナ車両)と提携し、コンビーノを広島に納入しています。
シーメンス日本法人サイト 日本にも電器製品を数多く輸出しているメーカーだけあって、日本語ホームページがあります。交通製品のコーナーではコンビーノの紹介もあります。
GCEアルストム社
フランス最大の鉄道車両製造メーカー。同時にフランス最大の造船メーカーでもあり、フランスきっての製造会社(最近経営危機が深刻で、政府援助が決定しましたが)。ルノーやプジョー・シトロエンなど自動車、エアバスとならびフランスは交通関係の製造部門は非常に強いことがわかります。アルストム社はTGVの製造メーカーとして有名です。
トラムの製造では、ほとんどフランスの都市への納入です。アルストム社のトラムのトピックとしてはなんと言っても、1987年のグルノーブルへ納入した65%低床車でしょう。低床部分を広げるために、中間の付随台車(モーターのない台車)を車軸なしとしたこの車両、車軸なしの車両の開発はアルストムが世界で初めてだったのです。このトラムはしばらくフランス標準型となり、ルーアン、パリ=サンドニ線、そして1997年のパリ=セーヌ渓谷線まで採用されました。その後はモーター付きの駆動台車の開発ではドイツ系にやや遅れを取っていましたが、CITADISで100%低床モデルをラインナップし、2000年末開業のリヨンに納入しました。アルストム社の技術開発が現在のヨーロッパトラム全盛に対して果たした役割は大きいと言えます。納入実績は、65%低床タイプがグルノーブル、ルーアン、パリ。CITADIS70%低床タイプがオルレアン、モンペリエ。100%タイプがリヨンとパリ=セーヌ渓谷線であり、今後ボルドーやミュルーズへの納入も予定されています。
ロール社
フランスにあるメーカーで、ゴムタイヤトラム・トランスロールの製造メーカーです。主に特殊車両を製造しているメーカーです。パリ交通営団(RATP)ゴムタイヤトラムのコンペをやるのに際して、トラム製造に参入しました。これまで通常のトラムや鉄道車両は作っておらず、今回のゴムタイヤで軌道交通部門初参入ということになります。トランスロールはフランスのクレルモン・フェランやイタリアでの採用が決まっており、日本向けに三井物産系の物産交通システムを代理店に売り込みを行っています。
ロール社のサイト
サイト自身はフランス語だけです。トランスロールのカタログをダウンロードすることができ、カタログにはフランス語版、英語版、イタリア語版の3種類あります。ENTRERをクリックし、Transport Publicのコーナーへ行けばトランスロールの情報を見れます。Documentation (pdf.zip : 3,7 Mo) のダウンロードしたい言語で英語を選んでクリックすれば、英語版のトランスロールカタログが入手できます。
ポルシェ
説明するまでもなく、自動車のポルシェです。ウィーンの超低床トラムを制作しています。
Irisbus(ルノー、ファイアット系)
Irisbusはバスメーカーで、国際的な自動車メーカー再編の中、ルノーとファイアット・イベコの合弁会社として両社のバス部門を引き継いで誕生しました。このうち、ルノーはゴムタイヤトラムの一つであるCIVISを開発しており、CIVISはIrisbusに引き継がれています。
2,過去のヨーロッパメーカー
合併・併合を繰り返す前のメーカーを示します。
デュワグ (現在シーメンス傘下)
ドイツを代表するトラムメーカー。現在のトラム隆盛の基礎を築いたデュワグカーの開発をしたメーカーです。デュワグカーは技術面で金字塔を打ち立てたのがPCCカーならば、輸送力増強と言う面でターニングポイントをもたらしたのがデュワグカーであると言えます。トラムの新機軸の車両は、あふれる自動車によってトラムが危機を迎えた1930年代に高性能、低騒音のPCCカーが開発されました。だが、高性能のPCCカーも自動車渋滞に勝ち目はなく、アメリカ、イギリス、フランスではトラムは自動車に負けて撤去が進むことになります。西側先進国で唯一トラムが残った西ドイツでは、自動車に負けないトラムとするために、性能だけではなく輸送力も上げようということになり、1950年代後半に開発されたのが、高性能な大型連接トラム、デュワグカーです。西ドイツでは輸送力の高いデュワグカー投入と前後して、軌道の専用化や一部地下化などを行い、渋滞に巻き込まれず、輸送力の高いトラム(シュタッドバーン)として再生を目指しました。デュワグカーは戦後の西ドイツのトラム存続・改良を支えた立役者と言えます。
大きな役割を果たしてきたデュワグ社も、新型低床車が次々と登場する中、シーメンスの傘下となり、現在ではシーメンス・デュワグ共同でコンビーノを製作、日本にも輸出されています。そういう経緯で広島のグリーンムーバーには、シーメンス、デュワグ、アルナの3社の銘板が掲げられいます。
ABB(→ADtrantzに吸収)
スイスの電機メーカーで、ドイツにも拠点を持っています。交通製造部門でトラムを製造しており、イタリアのソシミ社から引き継いだ技術を使ってストラスブールのユーロトラムを開発しました。しかし、ABBの交通部門はダイムラー・ベンツに売却されでADtrantzとなりました。
ADtrantz(→ボンバルディアに売却)
ダイムラー・クライスラーがABBを吸収してできたメーカー。正式にはダイムラー・クライスラー・レールウェイシステムという。ドイツを始め、かなりの市場規模を持つ鉄道製造メーカーとなり、新型トラムも熊本タイプのGTや独自開発型のインチェントロなど様々なラインナップを持っている。だが、ベンツグループは結局鉄道製造部門をボンバルディアに売却してこのADtrantzは短期間で消滅することとなった。
ソシミ(技術はABBに継承)
イタリアのメーカーで、89年頃に独自の技術で小型車輪と小型モーターが一体になった車軸なし超低床トラムの開発に成功しました。しかし、その後ソシミ社は倒産してしまいました。この技術はABBに引き継がれ、1994年のストラスブールのトラムに採用されました。ストラスブールの低床トラムの成功が現在のヨーロッパにおけるトラムの流れを作ったと言え、ソシミ社の現在のトラムに対する貢献は大きいと言えます。ソシミのトラム技術を引き継いだメーカーはなぜかその後合併を繰り返し、ストラスブールタイプのトラム(ユーロトラム)は製造メーカーでは流転を繰り返していることになります。
3,日本系メーカー
日本系メーカーは国内の路面電車市場が小さいこともあり、あまり有名ではありませんが、北米への輸出実績が高く、日本系メーカーのトラム技術力は北米では高く評価されています。現在日本のメーカーは100%低床車の技術がありませんが、現在国土交通省と協同で日本のメーカーが100%低床車の技術開発プログラムを実行しています。
アルナ車両(旧アルナ工機)
アルナは最近の日本の路面電車の大半を製造しているメーカーです。阪急電鉄の子会社であり、阪急への納入を得意としているメーカーでした。しかし近年の不況に伴う阪急グループ整理の中で、阪急自身も新車の投入を減らしている中、会社精算して製造部門から撤退することになりました。ただ、従来のつきあいである日本の路面電車事業者から路面電車部門の製造は継続して欲しいという要望が相次ぎ、後継会社であり阪急電鉄の車両整備を担当するアルナ車両で今後も路面電車だけは製造を続けることになりました。
アルナの路面電車は東急・名鉄・阪堺・京福など、グループに製造メーカーを持つ事業者以外のすべての事業者に納入実績がありました。日本の路面電車に広い顧客があるために、近年リトルダンサーという新型低床車を開発し、松山、高知、鹿児島で採用されていますし、シーメンス=デュワグと提携したコンビーノの輸入も手がけています。それだけの路面電車市場を持っているなら、アルナ工機も会社精算せずに路面電車製造メーカーとして継続できるのではと思われる方も多いでしょう。哀しいかな、日本の路面電車を取り巻く環境では路面電車の受注は全国レベルでも年間3−4両くらいで、とても事業になる規模ではありません。1事業者が1年に10本、20本単位で発注する欧米の事業者とは雲泥の差があります。他の日本系メーカーとは異なり、海外への輸出をやっていなかったので、路面電車製造メーカーとしてやって行くにも困難が大きかったのです。
ともあれ、アルナ車両でも路面電車製造は継続され、長崎に連接型低床車を納入することが決まっています。日本型低床トラム(台車)開発に成功すれば、日本のトラム市場も活気づくかも知れません。
近畿車輛
近鉄の子会社であり、近鉄の車両の他、JRグループへの納入実績も高い国内最大手の鉄道製造メーカーの一つ。海外への地下鉄車両輸出実績も高く、アメリカやエジプトのカイロでは近畿車輛製の地下鉄が走り回っています。
国内向けには近年トラムは作っていませんが(近車のトラムの代表は、旧京阪京津線用路面電車80型)、北米へかなりの輸出実績があり、北米向けの低床車も開発しています。アメリカではボストンへ連接車の納入、テキサス・ダラスの高速トラムの納入、ニュージャージー州への65%低床車の納入があります。このうち、ニュージャージーの65%低床車はアメリカでは珍しい車軸なし車両導入となりました。トラム車両開発実績が高いことから、日本型低床トラム開発成功の暁には、先導役となることが期待されます。
東急車輌
東急の子会社の製造メーカー。JRへの納入実績が高い日本でも最大規模のメーカー。関東標準車両になった観のあるJR東日本E231系電車をJR東日本と共同開発し、東急にも同型車5000系を納入しています。 トラムでは、東急世田谷線の300系および阪堺への納入実績があります。阪堺の親会社、南海電気鉄道の車両はすべて東急車輌で作られていることから、その関係で阪堺へも新車納入しています。アメリカへの納入実績もあります。
日本車輌
これも日本を代表する車両メーカーで、大手私鉄では名鉄へ納入しています。その関係上、名鉄が運営する岐阜のトラムは日本車輌が手がけ、スロープと異半径車輪を駆使した低床車、800型を開発しています。海外への実績としては、自動車の街ロサンゼルスに20年ぶりに復活した、LRTブルーライン電車の納入があります。
川崎重工
これも日本を代表する車両メーカーです。大手私鉄では京阪への納入実績があり、その関係上京阪の路面電車のうち、京津線用800型を納入しています。アメリカへのトラム納入実績もあります。
武庫川車両(解散)
阪神電気鉄道の子会社で、阪神の車両を製造するメーカーでした。京福電気鉄道・叡山電鉄の小型車両は武庫川車両が手がけています。阪神グループの事業見直しで、2001年に会社解散しました。すでに京福嵐電・叡電の車両交代は一段落しており、アルナのように路面電車製造だけ継続することはないでしょう。
新潟トランシス(旧新潟鐵工所)
新潟トランシスは直接には路面電車を作ってはいませんが、ボンバルディアと提携してボンバルディア製トラムを輸入、新潟で組み立てを行って国内事業者に納入を行っています。熊本・岡山への納入実績があり、高岡にも納入されます。新潟鐵工所は航空機部品が主力で、鉄道製造事業では気動車製造の最大手でした。しかし、2001年のNYテロ以降の航空不況で業績が悪化し、2002年には経営破綻してしまいました。しかし、石川島播磨重工(IHI)が傘下におさめ、鉄道製造部門はIHIグループの新潟トランシスとして再出発しました。
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